2025年4月30日水曜日

Vol.302「生きててよかったって事が時々ある」の巻

  長い、4月はとても長く感じる。「弾き語りワンマン 始業2025」も半年くらい前のことのように感じるが、しかしまだ一ヶ月も経っていないのが信じられない。この日までの全てをかけて構築し、一人で向かって全部を出せたと、またゼロからのスタートだと気持ちよく思えた。それは、春が来て新しく花が芽吹き散り、そこから新緑が生まれてくるような新たな気分、まさに始業だなと思えたからではないだろうかとも思う、いきなり余談ですが、最近読んでいた水木しげるさんの自伝では戦争で空爆にあい、片腕を切断した水木さん、その切断された腕の断面の皮膚が再生していく過程で、ほのかに赤ん坊の匂いがしていたとのこと。LIVEとは、毎回死んで生きてを繰り返しているのかもしれないとも思った今回、新緑の季節、やり切ったこの清々しい始まりの空気は、赤ん坊の匂いをはらんだ希望の匂いなのかもしれないとおもったりもして、新緑の季節いかがおすごしか。

 今回は今年3月11日に配信リリースした曲、「アカリ」について書こうと思います。
 この曲は15年前に作った曲で、全部そうだけど、曲が生まれる時というのは何年経ってもその景色を覚えてるものだなぁと思う。あの頃はニックバッカーズで動いていた時期で、我々は名古屋へライブをしに行った。
 そのステージは愛知県西尾市で開催されていたフェス、「ロックオンザロック」のプレイベント的なものだった。主催者にはインザスープが在籍してた事務所ロフトのピンクムーン社長のシゲさんなどもおり、インザスープ以来、久々にライブをみてもらえるという時でもあった。その演奏中にギターのおばっちゃんの弦が切れて、彼が楽屋に戻って弦の交換をしてる間は残ったメンバーでセッションをはじめて、おばっちゃんが戻ってきても全員でのセッションが続き、即興音楽が会場を巻き込んでいき昇天していった。完全に会場と一体となり昇っていく感じがあり、スリルと奇跡、まさにマジックが起きて久々の感覚になった。
元々インザスープは即興性の高いバンドで、毎回即興コーナーを入れてた時期があり、それはその面白さをかってくれたシゲさんの提案だった。即興にはいい時もあればそうでない時もあることも含めて楽しんでくれていて、その危うさ、隙間に音楽と人の面白さがあることを、身をもって体感してきた。そのシゲさんのイベントで奇跡をまた起こせたこと、起こそうとおもってできることではない、計算ではない流れの中での奇跡をニックバッカーズのメンバーと共有できたこと、満月の引力に引っ張られるかのような奇跡をまた音楽で味わえたこと。ライブが終わり、楽屋や打ち上げでメンバーやシゲさんたちみんながいい顔をしていたこと。何かが伝わり共有できたこと。僕はその全てが嬉しくてずっと心にあったかい水がたぷんたぷんと溜まっていて、翌日東京に戻ってもずっとたぷんたぷんがあった。その水をメンバーの前で流せるわけもなく、やり場のない感情をもって家に帰りギターを弾いて、「生きててよかったってことが時々ある」とぽつりぽつりとすんなりでてきた。途中段階でニックのメンバーに聞かせてサビを練って曲ができ、レコーディングをした。すんなり出てきたわりに全体を完成させるまでには紆余曲折もあり、できた当初は歌いこなすのが難しい曲だった。
 その後弾き語りの頻度が増えていき、そこでこの曲はまた転がり、自分の曲になっていった。
 あの頃自分は楽しく生きていたし、胸には希望があった。レコード会社の契約が切れても、現場仕事をやり始めても、むしろ健やかに音楽ができるわいと揺るがなく、やりたいことがあり、それができていたつもりだった。でも、心のどこかにはやはり、悔しさや寂しさ、今に見てろよという埋められない何かがあったんだなと。「生きててよかったって事が時々ある」、そんな思いをして、逆に知ることもあるんだなと最近思う。

 曲ができて4、5年経ったある時、渋谷七面鳥での弾き語りライブを終えた僕の前に女の子がきて、僕の遠い親戚で学生時代からインザスープを聴いていてくれていて、社会人になり、ようやくライブにこれるようになったこと。よくみたら確かに顔が似てるねとか言いあい、初めての遠い親戚との対面をお互いに喜んだ。それからよくライブに来てくれていた。その頃僕がよく着ていた水玉の青いシャツと同じようなシャツを着て、文章を書くのが好きな彼女はライブレポートなども書いてくれていた。彼女は学生時代に人間関係でつらいおもいをし、それから何度か自分で命を絶とうとしたことがあったということを母から聞いていた。その彼女がこの「アカリ」の歌詞を部屋に貼って頑張ってるんだということを、嬉しそうに僕に伝えてくれた。自分がつくった曲が誰かの希望になっていると思えて嬉しかった。そんなある日の夕方、母から電話があり彼女が病院に運ばれたことを伝えられた、なぜそうなったか母は言わなかったが、事の重大さに気がついていない僕に、母は声を荒げてすぐに病院に行くように伝えてきた。埼玉の病院とのことで、その日の翌日は埼玉でライブだったのでそのままライブへ行くことも考えギターを持って病院へ行った。病室へつくと彼女は意識不明だった。彼女のお母さんがギターを持ってる僕を見て、意識のない彼女に「ユウスケくんがきてくれたよ、歌ってくれるって」と言った。そのつもりでギターをもっていったわけではなかったけど、そのままギターを出して耳元で繰り返しこの「アカリ」を歌った。そんなわけはないよな、戻ってくるよなと信じて歌った。意識はもどらないまま朝になり、昼から僕はライブへ行き歌い、彼女は戻ってこなかったことを知らされた。後日、棺桶の中の彼女は青い水玉のシャツを着てた。

 それから10年近く経ち、去年、千葉稲毛のK’sドリームでKが2011年の震災後から毎月主催している「頑張ってるぜ日本」にて共演した若い二人組の男の子達の歌のほとんどが「死にたい」というようなことを歌っており、MCも「ライブもしたくない」的な元も子もない後ろ向きさで、歌では何を歌ってもいいというのが泉谷しげるさんからの助言で基本姿勢ではあるが、その子達の歌を聞いていてなんとも言えないがっくりとした気持ちになり、その後の出番だったので、急遽、Kに「アカリ」を歌いたいと提案した。それまでは「アカリ」を一人で歌っていたのでKと演奏するのは久々だった。急遽の提案にKも楽屋でコードを思い出してくれて、本番で「アカリ」を久々に二人で演奏した。歌は何を歌っても自由なので直接何かを言うことはないけど、せめてものアンサーだった。
 その時の流れと「アカリ」を聞いてK`s店長のコウ君が終わった後に、こういうことだよねと伝えてくれた。その後もなんどか演奏するたびにやっぱりいい曲だと言ってくれ、毎年一曲感動した曲を出していく企画を思いついたと、その第一弾としてレコーディングしたいと言ってくれ、今この世に伝えたいと伝えてくれ、去年録音して今年の3月11日にリリースとなった。

 歌に自由を感じ、希望を感じ、奇跡を感じ、勘違い、思い上がりもし、無力を何度も感じてきた。それでも歌や音は優しいものであると、懐も奥も深く、いまだに希望を感じさせてくれる。多作ではないし音楽的才能が備わっているわけでもないけど、自分なりに生きてきて感じたことを曲にして、聞いてくれる人がいて、広めたいと思ってくれる人がいて、そんな人達と灯りをともしていく。今回の弾き語りワンマンでも改めて感じた、LIVEというのは、その都度やり切って死に、また新たに生まれ生きる、白と黒の市松模様なんだと。全部とは言わずとも、どこか一部分からでも水木しげるさん言うとこの赤ん坊の匂いをさせながら、新たな芽吹き、曲を求めていきたいと思います。これからもぜひ体感してもらえたらと思いながら今月はこの辺で。良い初夏を。

自分の録音アプリの中の曲ネタなどを整理してどこに何があるのかわかるようにしたメモ。何ページにもなったけど、これはこれで歴史を感じておもろい。

サクラサクラ

なんせ一人だと隙間があったらスタジオ入ってないと不安で2日に一回は入ってたんじゃないだろか弾き語りワンマンに向けて。


心強いマイギア。

新橋や水天宮にあるおにやんまってうどん屋さんおいしいですね鳥の天ぷらも

一人だと毎回写真も同じにになりがち。

昨今のチューリップってのはいろーんな種類があるんですなぁ。

緑が燃える

このシャツワンマンに向けて買いました。一見普通のアロハにみえてよーくみるとドクロがいるんですね、生きる死ぬが今回のテーマだったかも知れません。

日々曲順が構築されていく事サクラダファミリアの如し

ちなみに大馬鹿野郎集会はこちらでした。

江ノ島にて延岡産カラスミと。

色んなところに砲台の跡や洞窟があるだろう。そして外国からの観光客の多いこと

その話をしてくれた定食屋さんがなくなってました。建物なくなり出てきたこの石垣はどのくらい昔のものなんでしょ

イケスだと思ってた。

いつもいいですねいいちこポスター。このチラシを作ってる人と話してみたい。

今回もロフトやラプソディやCCOに貼ってもらいました。貼れるところ募集中です。

もう15年も前に一度録音してるので店長コウ君にじゃあ全部のプロデュースをお願いしますと、最後のコウ君の子供の声が入っていたりと遺憾無く腕を振るってくれたのですが、このサブスクに申請をする段において、中尾と草場という表記では登録できないなど、四苦八苦したらしく、表記等の確認をする前に後から訂正できるだろうととりあえず埋めた情報が本ちゃんになってしまい、僕が確認する時にはもう訂正できない状態だったのですが、曲が広まればとオッケーしましたが一応ここで訂正をば。タイトルは世界を視野に入れて英語表記になり、あと作詞作曲クレッジットは作詞中尾諭介、作曲中尾諭介、田中大介が正式になります。


諭介がお答え致します

■「前回のコメントと重複しますが、大馬鹿野郎集会楽しかったですね。そして私も龍也君の成長にビックリしました。
当時お母様やおばあ様と一緒に来ていた少年が自分の夢を叶えて憧れていた人と一緒にパフォーマンスする姿を親戚のおばちゃんみたいな眼差しで感慨深く見守ってました。
私は自分の憧れや幼い頃の夢を叶えられてないしなりたい自分になれてないなあ・・・諭介さんは「なりたい自分」になれてますか?」
(夕陽 2025/04/28 23:17)
→なるよね、親戚の目線に、なりたい自分にはなれてないというのもあるし、考えようによってはなりたい自分以上になれてるというのも年々思えるようになってきたわ。
 こんな人生なかなかないよって、面白い人生を送れてるなぁと思えるし、もっと頑張りたいと思てるよ。感謝する事が増えたね。


■「大バカ野郎集会300回記念ライブも終わり、諭介さんの弾き語りワンマン始業2025も終わり、あっという間に4月も終わろうとしています。今年の弾き語りワンマンもとても楽しかったです! リラックスの中に緊張感も感じられ、この日のために組まれた曲に心が動き、諭介さんらしいMCに元気をもらいました。個人的な話になりますが、この4月から異動になり仕事の内容も大きく変わって、いまさらこんなにまだ覚えることがあるのか!と日々頭から煙が出そうな感じでやっていますw 最初は大変なことばかり数えてしまっていたけど、変わってよかったことにも少しずつでも目を向けられたらと思います。それにこう大変だとライブに行くのが好きでよかったなと思ったりします。楽しみや推し活も力になります!w なので、私が頑張るために諭介さんにも頑張っていただけたらと思います!健康にも気をつけましょう」
(A.T 2025/04/29 7:37)
→がはっ頑張るわ、そう言ってもらえると頑張りがいがありますなぁ、頑張りたいです頑張ります。新しくまた覚える事があるのもいいね、新緑が芽吹く感じやね、僕も英語の単語覚えをまた再開してるわ、おそーいペースだけど一個一個覚えて馴染んでいく感じが頭の体操になるね。また忘れてもいくけど。

4 件のコメント:

  1. k's共演者の歌のほとんどが「死にたい」というようなことで後ろ向きなMCなんてがっくりしちゃいますよね。
    私は「死にたい」とか軽々しく言うのが好きではありません。
    病と闘っている人、災害事故でこの世を去ってしまった人、戦地の人、その無念さを考えたらそんなこと言うものじゃないって思うんです。
    私も楽しいばかりじゃなく生きてきたけどそんな風に感じたことはなくて歌や音が希望をくれる、本当にそうだと思います。
    今回のエッセイの少し重めの内容に悲しい気持ちになってしまったけど「生きてて良かった」そう思えることが一瞬でもあれば前に進めるしそう思わせてくれる「アカリ」いい曲だし大好きです。

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  2. 音歌にまっすぐ一直線な諭介さん
    アカリにまつわる今日までの様々な景色や想いを、私たちにも共有して下さり嬉しかったですありがとう。
    産み落とされた1つ1つの曲が人生レールに乗って時を重ねて、静かに走り続けていることを深く実感できました。
    そして…それを生み出す諭介さんのど真ん中をただただ尊敬し愛しています🎶

    話しは変わりますが、こちらのエッセイでチューリップや紫陽花など季節のお花いっぱいスナップ載せて下さるのなんだかご年配の方👵ブログみたいで、ほっこり懐かしく温かくなれ大好きです☺️
    江の島裏磯釣りのお供、延岡産カラスミ!そんな名産物もあったのですね、なんとも美味しそう。食べた〜い😋

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  3. 今月の「アカリ」について、諭介さんの文章を読んで感じたこともそうだけど、一昨日の稲毛のライブのアンコールでこの曲を歌い始める前に「面白おかしく生きているつもりが、悲しい気持ちとか寂しい気持ちとかに蓋をして生きていたんだなと気づいたときに作った曲です」って紹介してくれたのが印象に残って、私も改めて気が付くことがありました。生きててよかったー!って思いたくて面白おかしく生きて、楽しかった!面白かった!よかった!と思うときもたくさんあるけど、悲しさ悔しさや寂しさ、そういう気持ちが心にあるから気づける“生きててよかったって事が時々ある”んだなぁ。でもそういう気持ちは特別なことじゃないし、誰もが心の中に持っているはずなので、その先の生きててよかった!に自分も日々気づいていきたいし、やっぱり「アカリ」たくさんの人に聴いて欲しいなと思いました。

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  4. 「アカリ」はそんなにいろんな出来事があり、そして今回のリリースだったんですね。歌とか音楽ってやっぱりすごいなって思います。音楽は、特に諭介さんやインザスープの歌や音楽は私の心の安全基地で、いろいろあっても音楽を聴くと本来の自分の心に戻れたり、音楽を聴くことで助けられたことがたくさんありました。ライブにいつも行けたらいいのだけど、その時すぐに日常の中でふと聴ける「アカリ」のように配信だったり、CDなどとてもありがたいです。
    今回の写真ですが江の島の定食屋さん、なくなってしまったのですね…。とても残念ですね…。

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