2010年7月27日火曜日

Vol.126「夏のおもひで」の巻

2010、夏。アッつい夏、いかがお過ごしか。
夏はやっぱり好きやし、冬の間に何度想ったか。

んが、今年の夏はどうやら楽しく付き合うために自己管理も必要なご様子です。
あっちーからね。

この猛暑の中、よぎる思い出がある。
大学時代、友達に誘われ警備員のバイトをはじめた。
あの、工事中の道に立ち、赤い棒をふり、車を誘導する仕事。

これ仕事なんてのは、それぞれに大変なものなのであろうから、一番なんて軽々しく言えないだろうけど、自分が経験した中でいえば、一番キツイ仕事だった。
未だこの世の中で自分が尊敬する仕事のトップに位置する仕事だ。

例えば体力的にキツイ仕事だったり、机仕事にしても、何かしらやった感てのは、体のどこかに見つけられるとおもうのだが、20才そこそこで力がありあまってたせいか、非常にキビシクおもえた。

一晩中、車のこない山の中で、万が一、車が来た場合、「通れません」と知らせる係。
工事現場からも遠く離れているため真っ暗で音もない中、一人で立ってる仕事。
もともと落ち着きがないほうなので、むいてない仕事な上に、これはしんどかった。
どこかで見た警備員の人形が棒をふってるのを思い出し、人形でいいんじゃないかとおもったりして。
んが、その友達とタッグを組み、あちら側とこちら側にわかれて、こっちが車をながすときは、あっちが止めて、あちらがながす時はこっちが止めてを繰り返す。それをトランシーバーを使ってやる時は忙しく、退屈もしのげた。

「黒のスカイライン、一台とおりまーす、どーぞ」なんつって、やりとりをして、飽きてくると運転手にあだ名をつけたり、ナンバーの数字を当てたり、あちら側に向かって物まねをして、なんの物まねか当て合いっこをしたりしておもしろかった。(余談だが、この時に自分がしてた物まねがロバート・デニーロの物まねで、数年前にお笑い芸人の人がやっているのを観て、着眼点が一緒やと、嬉しくおもったりした。 自分のは全く似てないけど)

そんで、連日の猛暑で思い出すんだけど、真っ盛りの夏、交通量の多い道路で連日、棒を振った。
ギラギラ太陽、アスファルトからの照り返しに排気ガス。時間が猛ーーーーーーー烈
に長く感じた。
若さも、落ち着きがないのも、精神力の弱さも手伝い、耐えられないなこりゃと壊れそうになった。

どうにかおもろいことはないかと、昼に弁当を食べながら考え、割り箸をポケットに忍ばせ、炎天下の現場にもどった。

再び耐えられんなこりゃとなった。そうなったところで一か八かの勝負に出た。

来た車をとめて、背中をむけ、相方のゴーサインを待つ。待ってる間に先ほどの半分に折った割り箸を鼻と口に差す、ドジョウすくいの踊りをやる時のあれだ。

相方からの「そちらから車ながしてよし」のゴーサインが出たとこで振り向き車を流す。さりげなく僕の鼻には割り箸がささっており、気付いた人は車の中で笑っていた。

車の中で笑ってる人をみて、僕は何かこう一つの達成感をおぼえた。
んが、なるべくのポーカーフェイスを整え、任務を遂行した。
どうぞご自由におもちください的な感覚で務めた。おもしろいとおもう人だけどうぞご自由にといった心もち。

それでも時々、調子にのってしまい、心が笑わせようとし、見返りを求めた時などには、逆に不愉快な顔をされたり、「面白いとおもってんの?」的なジェスチャーをされたりもした。 

鼻と口に割り箸をさしたまんま、いろんな反応を冷静に眺めた。ふざけたことをしているのだから、気をぬくとただのおふざけになるんだなぁとおもったし、排気ガスと汗で真っ黒に汚れても、自分の中に品をもてるかどうかで割り箸の意味合いがかわってくること。どちらにしてもふざけたことをやっているのだから、ふざけたことに変わりはないが、そこにはおおきな境界線があった。
こういうことがあったらどう? ありえることだよねっていう、ただの提示の範囲でやる。心のもちようで反応がかなり変わるんだなぁとおもった。

おもしろかったし、勉強にもなった。連日の猛暑でおもいだす体の記憶がこんなことでどうしたものかともおもうが、それだけ多くの発見があった。炎天下の道路の上が地球の真ん中におもえ、割り箸一つでその道路に愛着も湧き、自分がこの道路を守ってるんだという意識が強くなった。

夏休みが終わり、大学がはじまった。

講義にいくと、先生が夏休みの体験を発表させはじめた。生徒が挙手をし、それぞれの夏休みの体験を述べる。僕は道路でのことをおもいだしていたが、わざわざ言うことではないと、なるべく目立たないように、みんなの発表をきいていた。
外国にいきホームステイをしたことなどが、次々に発表されていき、それを聞いているうちに、ひがみ根性もあったのだろうが、そのただの報告に、なにやら腹がたってきた。だので最後の最後に手をあげて道路上のことを発表した。
「現場のおじさん達のこと」「すれ違う車のこと」「道路沿いの花屋さんのおねぇさんと夕焼けがきれいだったこと」「割り箸のこと」自分なりの道路上での発見やドラマチックに感じたことを発表した。

発表し終わったあと、やらかしてる感もあったが、発表してよかったともおもった。

あの時期、本をよんだり、映画をみたり、音楽をきいたり、なるべく多くのことを知りたがってもいたし、知った上で、同じくらいに、世の中にあるパターン、自分の中にあるパターンを自分なりにどうぶっ壊していけるか探してた夏だった。

ミミズをカラカラにする太陽に焼かれ、都会の排気ガスの中にいるとおもいだす。どうしようもなく、くだらなく、ちっぽけな中にも新しい発見がたくさんあったこと。

連日猛暑、街中で、立っている警備員さんをみると、頭がさがる。僕には割り箸まで使わないと得られなかった発見と充実感てのが、割り箸なしでもやっぱりあるんだろうな。炎天下での交通誘導、大変な仕事です。しかし残念なことに、もしも今、この炎天下、振り向いた警備員さんの鼻と口に割り箸がささっていたら、僕はもう……僕は、イラっとしてしまうに違いないです。あのとき、平塚~秦野の道路にて、いろんな反応を見せてくれた通行中のみなさんどうもありがとう。

そんな警備員さんには悪いけんども、ビバ!夏!焼け焼け太陽、我のパターンをぶっ壊せ!
そんな2010年、真っ盛りの夏です。エブリバデ、みんなの夏休みの友が色とりどりになりますように!よい夏を!