2004年11月23日火曜日

Vol.58「どっかで誰かのマイブーツ」の巻

 11月秋。いかがおすごしか、もう冬だ。'04年の秋は秋らしさをあんまり感じなかった。そのせいではないけど、あんまり関係ないけど、秋や冬の必需品、ブーツがなくなったのが気になる。どっかに忘れてきたらしい。僕にとってブーツは不思議な存在だ。十八の時初めて買ったホーキンスのブーツは、ヒッチハイクをしたりして一緒に旅してまわった。四年ほど履いてぼろぼろになってかっこよかった頃、これからだって時に誰かが欲しいといったので、あげた。その頃、道を歩いてるとゴミ捨て場にきちんとそろえて茶色のマーチンのブーツが捨ててあった。運命を感じてその場で履いてみるとぴったりで、僕を待ってたかのようだった。そのブーツもかっこよくてライヴでも必ず履いてた。が、それも三、四年してデビュー前くらいに、どっかに忘れてきたらしく、いなくなった。その頃人から譲り受けたのが、今回なくなった黒いブーツだ。これも四年くらいでなくなってる。ブーツには愛着がわく。自分にしかわからないかっこよさが年々増していく。一生もんだと思う。が、これまでの僕とブーツの関係を思うと、出会う時に出会って、別れる時があって別れてるような気がする。
 生きものだ。ぼくの知らないとこで、知らない人にちゃんと履かれてりゃいいけど、じゃない時を考えると、ちとやっぱり嫌だな。どこいったんかね、おい。
もの忘れが激しくなる一方で、毎年秋になると思い出すのが、大学一年の頃主催したフォーク・ライヴ。 それまで何か自分で事をおこす方じゃなかったけど、大学の“階段状でホール的な教室”を見たとき、授業だけに使うのはもったいないと思った。その頃夕方になると、近所のだだっぴろい畑の真ん中で一人で歌ってた。毎日一人で歌ってると、誰か人に聴いてもらいたい……なんつう気持ちになり、その階段教室で学園祭の時ライヴをしようと思いついた。ポスターを書いて出演者募集したり、ギターをもって歩いてる人がいると直接誘いまくった。とにかく自信があってもなくても、へたっぴでもいいし、ものまねチックでもいいから、なにかを発してる、表現しようとしてる人を誘った。
 いろんな人が出演してくれることになって、手伝ってくれた。教室も借りれることになり、当日はビール・ケースでステージをつくり、畑からワラをもってきてステージの脇にしきつめたり、布を黒板やかべにつるしたり、お香をたいたりして、好き放題の空間をつくった。本番は聴きに来てくれる人が少なくて、広い教室にポツリポツリだったけど、歌で出会えた先輩達や友達と一緒に一つの空間をつくれたのが嬉しくて、布にみんなの名前を書いてもらって、また来年もやろうときめた。
 翌年の新入生の中に今のメンバー達がいて、おもしろがって参加してきた。本番が終わりみんなが帰った後一人で歌おうと教室にもどると、ベースのケー(草場)が一人で酒飲みながらステージにいて、二人で歌った。こん人もココが好きなんだなぁと思うと嬉しくて、翌年はケーにやってもらうことにした。二年連続でわらをしいたりしたもので、虫がわいたとかなんとかで借りるのに大変だったらしいけど、なんとかやることができて、今度はケーの世界をガラクタをあつめたりしてつくり、四年目はドラムの吉田くんが主催した。毎年の主催者が翌年の主催者を決め、布に出演者の名前を書いて、こう“ずっと続いていったらいいな”と思いながら僕は卒業し、毎年秋になると思い出しながらも、続いてんのかどうかもわからず十年近くたった今年の秋。友達の結婚式でその頃の仲間と会い、「テレビ観てたら神大の学園祭映ってて、レポーターの後ろにフォーク・ライヴのポスターが見えたよ」と教えてくれた。秋風が僕を通してつくったフォーク・ライヴが、今は知らない人達を通してつくられてる。なんだかブーツみたいなやつだ。お客さんはポツリポツリだろうけど、続いてるってことが嬉しかった。来年やってたら会いに行ってみよう。


「フォーク・ライヴで使い一枚だけとっといた布とその時奮発して買った、字体はマーチンだけどよくみるとモーリスと書いてある貴重なばったもん。お気に入り」