波に揺れながら壁にコツコツあたりながら
それはそういうものなので、船太郎はなんの疑いもなくそうやって過ごした。
プカプカ、ユラユラ
あるとき、つながってたロープがスルスルとほどけた
ゆっくりと港からはなれてく。船太郎はあせった
マジかよとおもったが、ただはなれていく。不安で泣きたかったが泣けず、もどることもできない
心だけがガヤガヤ騒いだ
船太郎は諦めた
なるようになるしかならなかったし、泣いたってどうにもならないとわかっていた
かってにすすんでく
不安だった。仲間の船ともはなれてく
沖の方へ一人流されてく
海の流れに身を任せ、ゆっくりと一人になった
もう港は見えない。周りを見ても、なにも見えない。水平線が囲むだけだった
そのうち太陽は沈みはじめ、燃えてるような夕焼けになった
海と空がはじまってるあたりがボ-ボ-燃えていた
船太郎はなんども夕焼けを見ていたが、こんなに激しく燃えている夕焼けを見るのは初めてだったので、少し怖くなったが目を離せなかった
ずっと見ていると少しずつ火が小さくなっていき、空はどんどん暗くなっていった
暗くなりはじめた夜は、港での夜より暗かった
船太郎は怖くて目を閉じた。静かな海の上で自分を揺らす波の音だけがきこえた
船太郎は一生懸命、目を閉じた
海の音をききながら、真っ暗のなかで港に帰りたくて、港のことを考えていた
そのうちそれは夢になって、船太郎は眠っていた
漁師達と水しぶきをあげて漁にでたこと
大漁だったときの漁師達の歌
港で待っていた奥さん達の嬉しそうな顔や、漁師達の誇らしい顔
休みの日には陸にあがって、漁師達がカラス貝やのりのヒゲを剃ってくれたこと
仲間の船達と歌ったこと
船は楽しくて眠りながら笑っていた。楽しい夢だった
体があったかくなって船太郎は目を覚ました。朝になっていた
一人ぼっちになったことをおもいだし、船太郎はまた心ぼそくなったが、とりあえず夜を乗り越えたことにホッとした。
そんな夜と朝を繰り返しながら、船太郎はただ流されていくしかなかった
あるとき遠くから同じような船が流れてきた。「お-い お-い」と船太郎はよろこんで、こっちにくるのをまっていた
その船は歌いながら近づいてきた
ヒゲボ-ボ-でカラカラのおじいさん船は、楽しそうにうたっていた
船太郎は「おじいさん、 あのぉ僕はどおすればいいんでしょう。この先にはなにがあるんですか?」と尋ねたが、おじいさんは楽しそうに歌ってばかりだった
うたい終わると、くじらやカメと出会って歌を作ったことや嵐の夜の武勇伝をおもしろおかしく聞かせてくれた。あんまり楽しそうに話すので自分まで楽しくなった
ひとしきり話すとおじいさんは「じゃあまたな」と離れていった
いろんなことがあるんだなあと船太郎はドキドキした
その日の夕焼けは綺麗に見えて、なぜかもう怖くなくなかった
夜にはじめて目を開けてみると星が一杯で鳥肌がたったけど、なんだかおもしろかった。綺麗で嬉しかった
そんな夜に船太郎は初めて歌をうたった
翌日も船太郎は、目を覚ましてうたった。うたっていると鳥が遠くから飛んできて、船にとまった
鳥達も一緒になってうたった。うたい終わると一緒に笑った。誰からともなくまたうたいだし、その日の夜は一緒に眠った
朝がきて鳥達は「じゃそろそろいくね」という
「えっどこにいくの?」
「わからんけど、あっちのほうだよ」
「わからんならいかんでいいやないか、もう一曲うたおうよ」
「じゃ一曲だけね」
船太郎と鳥達はうたった
楽しかったけど少し寂しかった。船太郎はいつもより大きな声でうたった
船太郎の歌が終わらなくてうるさくきこえてきた鳥達は、じゃあそろそろいくよと歌をやめた
「なんでや、どこにいくんだよ」と船太郎は少し怒って言った
「わからないよ。でもいかなくちゃいけないんだよ、あっちのほうに、あっちのほうにいくんだよ、じゃあね」と鳥達は飛んでいった
船太郎はだまったまま、とりあえず鳥達が見えなくなるまでみてるだけだった
いかなくちゃいけない場所もいきたい場所も船太郎にはなかったし、怒ってしまった自分が嫌になった。船太郎は、なんども叫んだ。「 ボ-!ボ-!ボ-!」
叫び疲れた船太郎はポッカリした気分で、眠った
翌日、うたうのをやめた船太郎に寄り添ってクジラがやって来た
あのじいさんが死んでしまったことを知らされた。静かに笑いながら沈んでしまったこと
船は死ぬということを知っていたけど、どうしていいかわからなかった
歌う気にもなれず、ただ浮かんで、ポッカリしたまま流されていた
昼も夜も朝もただ流されていた
悲しくて虚しくなって涙が出てきた。体が全部涙になった、ずっと泣いた。いつか自分もいなくなることもずっと考えていた
そのうちヒゲがはえだして、流れていけない流木やあわぶく達とふきだまった。船は、もう流れていくことさえできなくなって、ポッカリしていた
全てがつまらなくなった
そんな夜、目を閉じた静かな夜に「ちゃぽ-ん、ちゃぽ-ん」と音が自分の中から聞こえた
燃料タンクの中に貯まった涙の音だった
その音は自分のなかから海に広がった
空に広がった
星たちが震えはじめ
風が優しく船太郎を撫でた
船太郎は力が湧いた
なんでかわからんかったけど、その音はひろがり力が湧いた
いくんだ、いくんだ、僕はいくんだ。船太郎の心に歌がひびいた。初めて自分で進んでいこうとおもった
自分で進むことをしたことがなかったけど、ぶるんぶるんとエンジンがうなりをあげるまでふんばった
白々と朝がやってくるころ、力強くエンジンが動き、いかなくちゃいけない場所も、いきたいとこもなかったけど、とにかくいくんだよと歌いながら、空と海がはじまる場所を目指して進んでいった
自分で進み始めた船の歌に合わせて、クロダイがカラス貝のヒゲをそってくれたり、鳥やクジラが一緒にうたってくれた。
同じような船とすれ違った時には旅の話をしあってうたい、楽しい時間をすごし、別れる時には「バイバイ」と言って別れた。
船は楽しい時間とほんの少しの寂しい気持ちを繰り返しながら進んでいった。もうふきだまりはしなかった
船はどこへいくのかわからなかったけど、ただ、自分で進んでいることがうれしかった
船はたくさんの歌を作ってうたいながら進んでいった。
この日の夕焼けはピンクになった ピンクの夕焼けの日に偶然なことが重なった。 |
宮崎のハニワ公園と日比谷公園は姉妹公園らしい。 |
井の頭公園にて漫画をキャラクターに 成りきり読んで聞かせる人 前にどこかの公園で 一人で練習しているのをみてグッときた |
◆独占企画 諭介がお答え致します
■ 「私も。落ち込むときは落ち込んで、なんかもうこの世の終わりーみたいな感じになったりしても、ただ次の日の朝が晴れているだけで、すべてどうでもよく なっちゃうことあります。決して投げやりな意味ではなく。あ、大丈夫かも~って思えてきて。で、あとから、あぁやっぱり太陽の光っていうのはすごい なぁ~って思います。心の中まで光をさしてくれる。それに、きっとそうやって思える時点では自分が抱えてることもそんなにたいしたことじゃないんですよ ね。あと、妖精は太陽の光が細く入ってくるところで目を細めるとときどき見えます。なんかふわふわしたまぁるい光です。自分だけが見えるのかもしれないっ て、人には一度も話したことなかったんですが大丈夫でしょうか?(笑)」(from:A.T 2009/03/18 17:18)
→マジで。結構具体的にみえるものなんだね 。見てるA.Tもその時天使なんだとおもわれます。
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